自分なりにまとめてみよう

今「著作権」がオカシイ。
筆者が、著作権について興味を持ち出したのは、今年前半に起きた「還流防止措置」騒動がきっかけ。これは、日本のCD(邦楽CD)を正規ライセンスした海外向け製品が、日本に逆流(還流)してくるのを阻止しよう、というもの。
日本のレコード会社が海外向けに正規にライセンスしたモノなので、これ自体を買ったり聴いたりすることは、著作権違反でもなんでもないはずなのだが、元々物価が安い国向けなのに加えて、中国などのアジアでは海賊版に対抗するため、正規版が極端に安く売られている、そのため日本国内で売られているCDに比べて安価で手に入る。もし、日本の購買予定者が、国内版よりも安価で入手可能な還流版の方を購入するようになると、著作権者にとっては得られるべきだった利益が得られなくなる(減少する)、だから法律でこれを禁止して欲しい、というのが日本レコード協会の主張だった。


しかし、ここでちょっと考えて欲しい。同じようなカテゴリーの商品が並んでいた場合、どちらを選択するのかは、ユーザ(消費者)に選ぶ権利があるのは、経済の常識である。ある人は「より安い品を選ぶ」のかもしれないし、「高くても品質のしっかりしたものを選ぶ」のかもしれない、「価格には拘らずサービス(サポート)がちゃんとしている方を選ぶ」という人もいるだろう。これが、資本主義経済の基本であり常識である。
にもかかわらず、「自分たちの利益が落ちるから、法律で禁止して欲しい」という主張、これはどうだろう?
一般人の感覚からすれば、単なる『エゴ』としか思えない。それとも、著作権業界だけは特別扱いされなければならないのだろうか?


確かに、文化振興のためには、著作物にはある程度の保護は必要だろうし、著作者の利益も保障するべきだろう。優れた著作物を創作した者には、相当の利益が還元されないことには、その著作者の生活基盤に影響し、創作活動そのものをも揺るがしかねなく、文化の振興にも響いてきかねない。この理屈は確かに正しい。
そういった、著作者の利益を守るために「著作権法」は作られたはず、と思っていた。しかし現実はそうではない。日経BPの記事『「300年ぶりの著作権のパラダイム・シフトが起きている」』で、経済産業省の方がこう述べている。

村上氏は,もともと著作権は,著者ではなく印刷業者などの流通業者を保護するために作られたと指摘する。「かつては印刷機やレコードのプレス機にはリスクを負った多額の投資が必要であり,大量複製の手段がナロー・パスだった。そのような状況では,著作物を広く行き渡らせるためには,複製業者を保護し,再投資を促進することが合理的な方法だった」



著作物を創作した人(あるいは組織)を保護するのでは無く、その著作物を流通させるモノ(会社・組織)を保護するために作られた法律、それが「著作権法」なのだそうだ。
その後、上記サイトではこう続けている。

しかし,これまで流通業者が所有してきた大量複製の手段がインターネットにより万人に開放され,著作物を届けるために必ずしも資本や流通業者が必要ではなくなった。そのため,現在様々な矛盾が発生している。



そして、著作権法に守られている「既得権益者」たちは、それらの「矛盾」を解決しようとはせずに、自分たちの権益を守ることのみに腐心している。「還流防止」はまさに、その最たるモノ。海外向けにどんどん売っていきたいけども安くしないと現地の人々には買ってもらえない、けれども日本の消費者には今まで通りの価格で売っていきたい、海外向けが日本国内に入ってきたら困る、じゃあ法律で禁止してもらえばいいや、となったわけだ。


ちなみに、音楽業界が守ろうとしている既得権益には、こんなものがある。

  • PCを使って音楽が複製され、著作権者に不利益を与えているので、その補償を補償金として製品に上乗せしろ。
  • iPod等のハードディスクプレイヤーは、音楽を複製する事が前提のもの、著作権者の複製する権利を侵害している可能性がある、これも補償しろ。
  • 着メロは、作曲者には利益があったがレコード会社には一銭も入らない。ところが着うたはレコード会社が「許諾」しないと曲データを配信できない。これはレコード会社にとってはオイシイので、競合他社には参入させずに、レコード会社だけでやる。

最後のやつは、既に実践していて、競合他社参入拒否が独占禁止法違反の疑いがあるとして、1ヶ月ほど前に公正取引委員会の立ち入り捜査が各レコード会社に行われたのは、記憶に新しいところ。


話を戻して、とにかく「著作権」に関わる業界がオカシイのだ。音楽業界だけでなく、出版業界・ゲーム(コンピュータソフト)業界これらが皆、ヘンになってきている。これら業界に共通している事、それは今、下がり基調になっている業界だということ。そして、業績の落ち込みは『著作物の保護が緩いからだ』という「勘違い」を、皆一様に叫んでいる。単に、バブル時が異常だっただけで、今が正常に戻ってきているだけなのに。


普通の企業ならば、業績が良くないなら、血の滲む努力をして上向きに転じる方策を考え抜き、危機を乗り越えていく。しかし彼らには「著作権」がある。業界を守ってくれる『伝家の宝刀』が。そして、その安易な「お上頼み」が通用しちゃってたのである、今までは。「還流防止措置」も、その今までの流れで、お上に泣きつき無理矢理国会を通したモノだ(まさに「無理矢理」で、国民からの何万人もの反対署名が集まったにも関わらず、音楽関係者数百人の反対声明があったにも関わらず、また衆議院での質疑にて法案提出根拠の資料が信憑性ゼロである事が判明したにも関わらず、公正取引委員会が懸念を表明していたにも関わらず…)。


しかし、ネットから始まったこの反対運動により、法案成立の際に付帯決議を付けることができた(法的拘束力は無いけど)。そしてまた、音楽ファンからの強いバッシングにより、日本レコード協会の会長名義にて「音楽ファンの不利益に繋がる事があれば、この法律を廃止することもやむをえない」という言質まで取り付けた(会長交代しちゃったけど)。「反対」という声をあげた事が、ほんの僅かではあるけども、「既得権益者」の思惑に対して一矢報いる事ができたのである。ならば、黙って言いなりになるよりは、声をあげ続けた方が少しでも良い方向に向く可能性がある。そんなわけで、筆者は今後も声をあげ続けます。


真の著作権は誰のためにあるのか?
著作者とその著作物を利用する側のためにある。
間違っても流通業者のためではない。